【Celebration】Sekhmet(セクメト) by Aynur
セクメトは常に雌ライオンとして、またライオンの頭の女性の姿で表されます。元素は火、色は黒と赤。怒り狂い炎の息を吐くことから、セクメトは「燃えるようなもの」や「炎」という形容語が与えられています。また砂漠の熱風は「セクメトの息」とも呼ばれていました。
頭上に頂く丸いものは太陽。灼熱の太陽を体現し、常に昼の世界に存在するセクメトは、死の世界、闇、夜といった世界に属する夫プタハの真逆の属性を持っています。
セクメトの力は、熱で敵を焼き尽くしてしまう太陽と炎の力でした。彼女はしばしば、ラーの額に「ウラエウスの蛇」に変身してくっついています。こうして太陽神の頭を守り、敵に炎を吹きかけるのです。
セクメトという言葉は「強力なるもの」を意味しています。
●セクメトの物語
セクメトは破壊と殺戮の女神で、太陽神ラーの片目から生まれました。これは右目とも左目とも言われています。
年老いた太陽神ラーは、自分がかつて創造した人類が己を敬わないことに怒り、人類を滅ぼそうと考えて自身の片目を抉り出し、その目に怨みと痛みを込めて女神を造り出しました。これが女神セクメトです。
セクメトは神を崇めない人類を殺戮するために造られた女神であるため、瞬く間に人類を残虐なまでに殺戮し、その血をすすっては狂喜乱舞したといいます。
エジプトの砂漠が赤いのは、そのときセクメトに殺された多数の人間の血で染まったから、という説もあるほどです。
その凄まじい大虐殺のせいで人類が絶滅の危機に瀕したため、神々がラーに対してセクメトを止めるように進言すると、ラー自身もセクメトのあまりの残虐性に恐れを抱いていたので殺戮をやめるようにセクメトを説得しました。
しかしセクメトは殺戮が楽しくて仕方がないため聞く耳を持たず、説得は失敗に終わってしまいます。しかもセクメトは神々が束になってかかっても敵わないた め、ラーは神々を集めて良策を募ると、セクメトが好きな血の赤色に似せたビールを作ってセクメトに飲ませようということになりました。
そこで7000樽ものビールを作り、ザクロや薬草で血のように赤く染めて地面に撒くと、セクメトはそれが血であると思って飲みはじめました。すると大量のビールを飲んで酔っぱらったセクメトはそのまま寝てしまったのです。
その隙にラーはセクメトの中から憎悪の心を取り除き、やっとセクメトを止めることが出来たといいます。
●死の女神として
セクメトは、伝染病などを統べ、「火のような息」=人間を殺してしまう病の風を吐く女神とされました。そのため、この荒ぶる女神を鎮められるセクメトの神 官たちは、伝染病を鎮める特殊な医師、呪術師でもあったのです。医療パピルスにおいては、不治の病は「セクメト神官たちにも治せないもの」として分類され ています。
●戦いの女神として
セクメトの武器は「心臓を射抜く矢」です。獅子であり、戦いの女神でもあるセクメトは、女性でありながらファラオの力強さの比喩として使われることがあり ます。たとえばセンウセルト3世をたたえる賛歌では「セクメトのなすが如きに矢を射る者」「かれはその国境に踏み込みし敵に対するセクメトなり」といった 表現が使われています。
●母なる女神として
セクメトは荒々しい戦いの女神、死をもたらすものではありますが、現実のメスライオンと同じく、子供たちを慈しむ強くやさしい母としての側面も持ち、その 面においてはハトホル女神やバステト女神とも同一視されています。新王国時代のテキストでは、「荒ぶるセクメトにビールを飲ませ、寝ている間に猛々しい心 を抜き取ると、バステト女神となった」というパターンのものもあるのです。
●家庭人、メンフィスの守護神
更新日:2016.06.19 Sunday